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2012年11月


D・ヤーギン氏講演~エネルギーミックスの重要性を提言
 
 

 日本エネルギー経済研究所は都内で、1992年に著書「石油の世紀―支配者達の興亡」でピューリッツァー賞を受賞したエネルギー問題の世界的な権威ダニエル・ヤーギン博士(写真)を招き、講演会を開催した。ヤーギン博士は、石油など化石エネルギー、原子力、再生可能エネルギーなど、さまざまなエネルギー源のオプション(選択肢)を閉じるべきでないとし、エネルギーミックスの重要性を強調した。同氏の講演要旨を紹介する。

 日本にとっていまはエネルギー政策、エネルギーの未来を考えるうえで大事な時。それは福島原発の事故を受けて、どのような将来像を描くのかということが問われている。エネルギーには安全性と持続可能性がなければならない。電力の安定化を図ることもエネルギー安全保障の根幹に関わることである。さらに日本には天然資源の賦存がない。エネルギー安全保障がより重要性を増している。
 日本は70~80年代、オイルショックという暗い時代を経験した。しかし、エネルギーの分散化、多様化によって、見事に復活した。今後も日本が世界経済の重要な一部分を占めていくには、競争力を持たなければならない。それにはエネルギーそして電力の下支えがなければならない。
 ここで3つの大きな問いかけを行いたい。
 1つはエネルギーは不足なのか、余剰なのかという問題だ。現在、世界的にはピークオイルと言われた時代から余剰の時代に入っている。石油がなくなるということが過去から言われ、その恐怖を克服するために、世界各国でエネルギー効率のアップや未利用エネルギーの開発など、さまざまな創意工夫によって乗り切ってきた。
 2つ目はエネルギー安全保障を考えるうえで、電力に依存する社会になっているという点である。インドで大停電が発生したが、実に世界人口の10分の1の人たちがこの停電を経験した。エネルギー安全保障は喫緊の課題であり、それは電力システム改革であり、天然ガスの確保、パイプラインの開発などである。一方で、10~20年前まではなかった多種多様な電子機器が市場に出回っている現在、サイバーテロへの対応も重要になっている。そして日本は、天然資源がないことからエネルギーの安全保障のうえで、よりエネルギーの分散化や多様化、自立化を図っていかなければならないだろう。原子力についてもエネルギーミックスの一部として考えていかなければならない。
 3つ目が環境保全とエネルギー問題をどうバランスさせていくかという問題である。水力以外の大規模なエネルギー源として原子力は炭酸ガスを出さないエネルギーとして、さらに環境対策の1つの答えとして、擁護されてきた。それが3・11以降、安全性・信頼性の問題が問われている。
 世界的に見ると、今後20年間で35%エネルギー消費が伸びると予測されている。十分対応可能な数字と見られているが、それに見合う開発投資が行われなければならない。また、イランの核開発問題をどう終結させていくのかということも大きな問題である。こうした地政学的なリスクに、日本はこれまで以上に注目していかなければならないだろう。
 エネルギーミックスの中で再生可能エネルギーの重要性がより高まっていくだろう。80年代と比べ、新エネルギー市場は拡大し、ビック・グローバルなビジネスとして変貌を遂げている。全エネルギー源に占める割合はまだ微々たるもので、各種のインセンティブや政府の開発援助などがなければ成り立たない側面もある。持続性・断続性という側面からも天候に左右されたりと、不安定要因も大きい。ただ、日本経済の競争力を高めていくためにもチャレンジしていかなければならないだろう。
 21世紀最大のイノベーションは、シェールガス・タイトオイルなどの非在来型エネルギー開発であろう。アメリカが天然ガスの輸入国から輸出国になろうとしている。アメリカがシェールガスの日本向けの輸出国になっていくことは、日本のエネルギー源の多様化ニーズとも合致する。
 こうした北米でのシェールガス革命が、インドや東アフリカなどといった国々での世界的な革命となっていくのか。原油価格に連動してきたガス価格がこうした革命によって大きく変化していく可能性もある。一方で、枯渇するといわれてきた石油が、シェールガス開発によってもたらされた技術によって、タイトオイルの開発に生かされている。
 エネルギー効率や省エネにもまだ大きな課題を残している。日本には「もったいない」という言葉がある。貴重な無駄にしないという日本の精神は、エネルギー効率や省エネの分野で生かされ、いまや世界的リーダーとなっている。こうした技術をさらに発展させていくことが重要だろう。
 日本においては原子力は賛否両論あるが、コスト、エネルギーのベースロードとしての位置付け、エネルギーの多様化の側面、原子力を失うことによる電力コストの上昇、それによる雇用の喪失、産業の空洞化という問題が出てくる。福島のような事故は二度と起こしてはならないという強い意志と、安全性の確保、国民の信頼をどう確保していくかが、今後の大きな課題となってくるだろう。
 エネルギーの安全保障においては、石油、天然ガス、石炭、原子力、再生可能エネルギーとすべてのエネルギー源のオプション・選択肢の門戸を閉じることなく、エネルギー戦略を組み立てていかなければならない。